これまでの記事では、バランスのとれたETFや高配当ETFを取り上げてきました。それらのETFはセクターの分散がある程度効いていますが、今回はセクターに特化したETFを紹介します。
セクター特化ETFの存在意義
通常、ETFは様々なセクターの銘柄に分散することで安定したパフォーマンスの実現を目指しています。では、なぜセクター特化ETFが存在するのか。それは、景気サイクル毎にセクターの得意不得意があるため、それを理解した上でタイミングを工夫してトレードすることで、利益が上げられるということです。
また、ハイテク株を買いたいとか、生活必需品株を買いたいと思ったとき、どの個別銘柄を選ぶべきか迷いますが、セクター特化ETFを買えば、そのセクターの主要な株を満遍なく買うことができて便利です。
セクター特化ETFの特徴
- 景気サイクルの特定の局面毎にセクターの得意不得意が表れやすい
- 分散が効いていないため値動きが大きくなりやすい
- 経費率がやや高め
セクターの得意不得意がもろに表れるため、世の中の出来事や経済指標、政策などの影響を受けやすく、値動きが大きくなりやすいです。
主要なセクター特化ETF
セクター特化ETFにも、米国株中心のものと、グローバルに投資できるものとがあります。
米国のセクター特化ETF
米国株のセクター特化ETFは、ステートストリート社のSPDRファンドとバンガード社のセクターETFが有名です。両社の各セクターETFのチャートはほぼ同じ形になっていたので、パフォーマンスの差はないと考えてよいでしょう。ステートストリート社のETFの経費率は0.13%で、バンガード社の方は0.10%と少し安いので、下表はバンガード社のETFでまとめました。経費率に関しては、バンガード社のS&P500連動のVOOが0.03%なので、セクター特化ETFの方がやはりやや高めです。
セクター | 銘柄名 | ティッカー | 分配 利回り (%) |
5年騰落率 (%) |
トータル
リターン(%)
|
一般消費財 | バンガード・米国一般消費財・サービス・セクターETF | VCR | 1.00 | 90.87 | 95.37 |
生活必需品 | バンガード・米国生活必需品セクターETF | VDC | 2.52 | 41.06 | 53.16 |
エネルギー | バンガード・米国エネルギー・セクターETF | VDE | 5.45 | -37.75 | -11.00 |
金融 | バンガード・米国金融セクターETF | VFH | 2.85 | 30.43 | 44.18 |
ヘルスケア | バンガード・米国ヘルスケア・セクターETF | VHT | 1.24 | 57.54 | 63.24 |
資本財 | バンガード・米国資本財・サービス・セクターETF | VIS | 1.83 | 48.52 | 57.17 |
素材 | バンガード 米国素材セクター ETF | VAW | 1.91 | 44.88 | 53.93 |
テクノロジー | バンガード・米国情報技術セクターETF | VGT | 0.99 | 204.12 | 208.57 |
電気通信 | バンガード・米国電気通信サービス・セクターETF | VOX | 0.94 | 35.65 | 39.85 |
公益事業 | バンガード・米国公益事業セクターETF | VPU | 3.24 | 63.19 | 78.89 |
分配利回り(インカムゲインの目安)、5年騰落率(キャピタルゲインの目安)とそれらの合計として「トータルリターン」を表示しています。それぞれ上位3位のセルに色を付けています。
「トータルリターン」は、単純に「5年騰落率+(分配利回り-経費率)×5年」で計算しています。配当金の再投資をしない場合の数字です。
グローバルのセクター特化ETF
グローバルのセクター特化ETFは、ブラックロック社のETFが有名です。経費率は全て0.46%です。なかなか高いですね。
セクター | 銘柄名 | ティッカー | 分配利回り(%) | 5年騰落率(%) |
トータル
リターン
(%) |
一般消費財 | iシェアーズ・グローバル一般消費財ETF | RXI | 0.98 | 48.97 | 51.57 |
エネルギー | iシェアーズ・グローバル・エネルギーETF | IXC | 9.46 | -24.97 | 20.03 |
金融 | iシェアーズ・グローバル金融ETF | IXG | 2.95 | 7.18 | 19.63 |
ヘルスケア | iシェアーズ・グローバル・ヘルスケアETF | IXJ | 1.40 | 42.2 | 46.90 |
資本財 | iシェアーズ・グローバル資本財ETF | EXI | 1.49 | 38.02 | 43.17 |
素材 | iシェアーズ・グローバル素材ETF | MXI | 1.69 | 49.51 | 55.66 |
テクノロジー | iシェアーズ・グローバル・テクノロジーETF | IXN | 0.82 | 182.92 | 184.72 |
公益事業 | iシェアーズ・グローバル公益事業ETF | JXI | 2.72 | 46.21 | 57.51 |
電気通信 | iシェアーズ・グローバル電気通信ETF | IXP | 1.12 | 23.55 | 26.85 |
リアルタイムチャート
セクターローテーションとチャート
景気局面における値上がりしやすいセクターは以下の図のようになっています。

その上で実際のチャートで見てみましょう。
VHT:ヘルスケア、VGT:テクノロジー、VOO:S&P500、VAW:素材、
VDE:エネルギー、GLD:金
2011年から2018年辺りの各セクターETFの騰落率を表示しています。この時期は景気サイクルとしては、不況~回復~好況という流れになっている時期です。不況に強いオレンジ色のヘルスケアがまず伸びて、回復期に強い水色のテクノロジー(情報技術)が次に伸びてきていますので、セクターローテーションの図の通りです。一方、好況期に人気になるはずの黄色線の素材株の伸びはイマイチです。
エネルギー株はコロナショックで-60%の暴落後、下図の通り一時最安値から100%の上昇を見せました。セクターローテーションの図の通りの動きかな。

セクター特化ETFの活用法と実践の難しさ
セクター特化ETFを活用するとしたら以下のような方法でしょう。
- 現在が景気サイクルのどの位置にいるのか推定
- 今後の景気局面で値上がりするはずのセクターETFを選定し、実際に割安であれば購入
- 予測の通り景気サイクルが回り、購入したセクターETFが値上がりしたら売る
景気サイクルの読みが正しく、セクターローテーションがちゃんと理論通りに回ってくれればこの繰り返しで、かなりの利益を得られるはずです。しかし、それが簡単にできれば皆が儲けられますが、以下のような難しさもあるのです。
- 景気サイクルの現在地を読むことは難しい
- セクターローテーションが理論通りに機能しない
現在が景気サイクルのどこにいるのか予測すること自体がそもそも難しいです。全米経済研究所は128か月(10年8か月)続いた過去最長の景気拡大局面が、2020年2月で終了し、コロナショックにより景気後退入りしたと今年6月に発表しています。しかし、実態はコロナショックという特殊な事象により一時的に後退したように見えるが、新型コロナウイルスの問題さえ解決すれば、以前の拡大の勢いが戻ってくるかもしれません。そうした場合、それは短い後退局面が終わって景気サイクルが1巡したと捉えればよいのか、以前からの拡大局面に一時的なノイズが入っただけと捉えればよいのかは難しい判断です。前者であれば次にやってくる景気局面は回復期ですが、後者であれば後退期がやってきます。
また、セクターローテーションが想定通りに機能するかは分かりません。市場がクラッシュしたとして、その原因がリーマンショックのような金融システムの欠陥によるものなのか、戦争なのか、パンデミックなのかで、各セクターの価格の反応が変わってくるでしょう。
このように、セクターローテーションを活かして、セクターETFをイイ感じに転がして利益をあげようという戦術は、日々の情報収集と深い洞察、そして経験に基づく勘のようのものも必要になってくると思われます。ですので、これは中級者から上級者向けの投資方法です。
以前から伝えている通り、初心者の方には、基本的には放置しているだけで安定してそこそこのパフォーマンスが期待できるS&P500連動のインデックス・ファンドやETFなどに積み立て投資することを奨めます。知識が身について、もう少しアクティブに運用してみたくなったら、資金の1~2割を使って、景気サイクルに合わせてセクターETFを売買してみるのも良いでしょう。
ちなみに、今回紹介したETFは、SBI証券で購入可能です。ETFを定期買付できるのは、SBI証券だけなので、僕も使ってます。
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