「投資家情動サイクル (Investor Emotional Cycle)」に関する過去の記事で、景気の流れに感情を揺さぶられるに任せていては、不合理な意思決定をして失敗した投資をしてしまうリスクが高いことを説明しました。機関投資家や経験のある投資家の収益の源は、大多数の感情的な素人投資家なのです。経験の少ない投資家は早期に「感情投資家」の状態を抜け出す必要があります。
そのためには、景気サイクルの傾向を理解しておくことが必要です。当然ですが、景気は上昇し続けることはなく、下落し続けるわけでもなく、サイクルがあります。
景気局面の分割
好景気とか、不景気といった言葉は、皆が知っているものですが、その定義について見ていきましょう。多くの場合は、景気を2局面あるいは4局面に分けて捉えられています。
2局面分割
景気を2局面に分割の場合には、景気拡大局面の最高点が山で景気後退局面の最低時点が谷であり、谷から谷までが1循環とされています。
4局面分割
4局面に分割する場合もあります。好況、後退、不況、回復の4局面を経て、景気が良くも悪くもない普通くらい水準に戻るまでを1循環とします。

内閣府 景気基準日付
日本の内閣府は景気動向指数に基づいて景気循環(景気基準日付)を発表しています。ここでは2局面分割で景気局面を分類しています。実際には、以下のように発表されています。
循環 (全期間) |
谷 | 拡張期間 | 山 | 後退期間 | 谷 |
第1循環 (xか月) |
なし | xか月 | 1951年(昭和26年)6月(7月) | 4か月 | 1951年(昭和26年)10月 |
第2循環 (37か月) |
1951年(昭和26年)10月(11月) | 27か月 | 1954年(昭和29年)1月(2月) | 10か月 | 1954年(昭和29年)11月 |
第3循環 (43か月) |
1954年(昭和29年)11月(12月) | 31か月 | 1957年(昭和32年)6月(7月) | 12か月 | 1958年(昭和33年)6月 |
第4循環 (52か月) |
1958年(昭和33年)6月(7月) | 42か月 | 1961年(昭和36年)12月(1962年(昭和37年)1月) | 10か月 | 1962年(昭和37年)10月 |
第5循環 (36か月) |
1962年(昭和37年)10月(11月) | 24か月 | 1964年(昭和39年)10月(11月) | 12か月 | 1965年(昭和40年)10月 |
第6循環 (74か月) |
1965年(昭和40年)10月(11月) | 57か月 | 1970年(昭和45年)7月(8月) | 17か月 | 1971年(昭和46年)12月 |
第7循環 (39か月) |
1971年(昭和46年)12月(1972年(昭和47年)1月) | 23か月 | 1973年(昭和48年)11月(12月) | 16か月 | 1975年(昭和50年)3月 |
第8循環 (31か月) |
1975年(昭和50年)3月(4月) | 22か月 | 1977年(昭和52年)1月(2月) | 9か月 | 1977年(昭和52年)10月 |
第9循環 (64か月) |
1977年(昭和52年)10月(11月) | 28か月 | 1980年(昭和55年)2月(3月) | 36か月 | 1983年(昭和58年)2月 |
第10循環 (45か月) |
1983年(昭和58年)2月(3月) | 28か月 | 1985年(昭和60年)6月(7月) | 17か月 | 1986年(昭和61年)11月 |
第11循環 (83か月) |
1986年(昭和61年)11月(12月) | 51か月 | 1991年(平成3年)2月(3月) | 32か月 | 1993年(平成5年)10月 |
第12循環 (63か月) |
1993年(平成5年)10月(11月) | 43か月 | 1997年(平成9年)5月(6月) | 20か月 | 1999年(平成11年)1月 |
第13循環 (36か月) |
1999年(平成11年)1月(2月) | 22か月 | 2000年(平成12年)11月(12月) | 14か月 | 2002年(平成14年)1月 |
第14循環 (86か月) |
2002年(平成14年)1月(2月) | 73か月 | 2008年(平成20年)2月(3月) | 13か月 | 2009年(平成21年)3月 |
第15循環 (44か月) |
2009年(平成21年)3月(4月) | 36か月 | 2012年(平成24年)3月(4月) | 8か月 | 2012年(平成24年)11月 |
第16循環 (xか月) |
2012年(平成24年)11月(12月) | 71か月 | 2018年(平成30年)10月(11月) (暫定) |
xか月 | 継続中 |
(出典:内閣府)
景気基準日付と日経平均の相関
内閣府が発表している景気は分かりましたが、実際の株価との関係がどうなっているか見てみましょう。
(出典:SMBC日興証券)
SMBC日興証券によれば、内閣府の景気の認識と株価は概ね一致しているとのことです。
景気サイクルをイメージすることの意味
内閣府が専門家集めて散々議論して発表しているのは、2年前の景気です。実際のところ、現在の景気局面がどのあたりにあるのか正確に読むことは難しいです。じゃあ、景気サイクルなんて後付けなんだから考えるだけ無駄じゃないか、と思われるかもしれませんが、そうではありません。
永遠の上昇も下落もない
普通に考えれば永遠の上昇も下落もないことなど自明のことですが、自分のお金を突っ込んで相場の世界に入っていると、そのような当然の認識をもつことも途端に難しくなります。感情に任せて投資をしていると、景気拡大局面では際限なく上昇するのではないかという期待で高値掴みしてしまい、景気後退局面ではどこまでも下落してゼロになることもあり得るんじゃないかと狼狽売りしてしまいます。
しかし、景気サイクルをイメージしておくことで過剰な空想に歯止めをかけ、際限のない期待や恐怖を防ぎ、次の展開をイメージしやすくなります。その大局観が、長期戦略の構築や、短期局面での意思決定時の思考の偏りをを軽減することに繋がります。