前回の記事で、大多数の投資家は「投資家情動サイクル (Investor Emotional Cycle)」に支配され、失敗した投資を行ってしまう確率が高いことを解説しました。成功する投資家への最低条件は、この僕たちを失敗させようとする感情のサイクルを自覚し、大多数の人と正反対の意思決定をしなければならないということでした。
簡単に言うけれど、投資家情動サイクルに無自覚で思考や行動を支配されている人と、そうでない人の違いがいまいちイメージできない人もいるでしょう。そんな人のために、今回は投資家情動サイクルの呪縛に囚われている「感情投資家」と、投資家情動サイクルを自覚し合理的に行動する「冷静投資家」の思考と行動を比較してみていきたいと思います。
冷静投資家の特徴
「感情投資家」と「冷静投資家」の比較の前に、感情に流されない冷静投資家の特徴をあげてみます。
- 自分の感情や情報を客観的に見つめている
- リスクヘッジしながら、勇気をもってリスクテイクする
- 仮説が外れたら、すぐに投資方針を見直す
これらの特徴を念頭に次の比較を見ていきましょう。
「感情投資家」と「冷静投資家」の違い
では、投資家情動サイクルの各ステージで、「感情投資家」と「冷静投資家」がそれぞれ何を考え、どのように行動するのか比較しながら見ていきましょう。

ステージ | 感情投資家 | 冷静投資家 |
楽観 | 不況が終わったような雰囲気があるから、株を買ってみよう。 | 不況時に買ったロングポジションは含み益を出している。もう少し上げそうだな。ストップロスを入れて少し買い増そう。 |
興奮 | 順調に上がってる。もっと上がりそうだから、もっと買おう。 | 少し警戒が必要だけど、もう少し上げそうだな。ストップロスを入れて少し買おう。 |
スリル | 自分の判断は正しかった!もっと上がるに違いないから、買い増しだ。 | 含み益がかなり増えて嬉しい。もっと上げそうだけど、そろそろ一部利確してロングポジションを整理しよう。 |
多幸感 | 含み益がすごいぞ!この勢いは止まらない!この流れに置いて行かれないように、もっともっと買うぞ! | 民放や一般紙までもが買いを煽っている。もう少し上がるかもしれないが、本格的にロングポジションを減らしていこう。 |
不安 | 少し値下がりしたけれど、この短期的な調整の後にもっと上昇するはず! | 資金は相当増えたな。 下落の始まりかもしれない。利確を進めて、さらにロングポジションを減らそう。 再度上昇するかもしれないから、小さめにロングポジションを持つが、ストップロスは入れておこう。 |
拒否 | なかなか戻らないな。直近の最高値くらいには戻ってほしい。 | ロングポジションは損切り。 そろそろ下目線に切り替えだな。 ショートポジションのタイミングを探ろう。 |
恐怖 | ダメだ。価格は戻らないかもしれない。ほとんど含み益がなくなってしまった。ポジションは手仕舞いすべきだろうか・・・。 | 下落の流れが濃厚になってきた。 ショートポジションを増やそう。 再度上昇する可能性はなくはないから、ストップロスは入れておく。 |
絶望 | もうダメだ、全てのポジションが含み損になっている。 突然景気が良くなるようなことは起こらないだろうか・・・。 |
ショートの含み益が伸びているな。 少しショートポジションを増やそう。当然ストップロスは入れておく。 |
パニック | 何が起こってるんだ!含み損が急激に膨らんでいる。どうしたらいいんだ・・・。 | まだ下がるだろうが、ショートポジションを一部利確しておこう。 |
降伏 | 苦しい。含み損は膨らむ一方で、このままでは資金がゼロになってしまうかも。この苦しみから逃れたい・・・。 そうだ、もう全部売ってしまおう。損切りは大事だと言うし、これが正しいんだ。 |
民放や一般紙が騒いでいるな。そろそろショートポジションを全利確しておこう。 |
落胆 | 含み損が増えていく苦しみから逃れたものの、結局資金の大半を失った。 皆が言う通り、投資なんかしない方が良いというのは正しかったんだ。もう株なんて買わない。株価もチャートも見たくない・・・。 |
相変わらず「暴落」「失業率」などとメディアが騒いでいる。あらゆるものが安くなっている。絶好の買い場かもしれない。割安な株や仮想通貨の買いを模索しよう。 |
憂鬱 | 自分はどこで間違ったのだろうか。なんて愚かなんだろうか・・・。 | まだ下がる恐れはあるけれど、ロングポジションをさらに仕込んでいこう。 |
希望 | どうやら景気が回復しているみたいだな。失ったものを取り戻したい。 再び投資すべきだろうか。 |
さらにロングを仕込んでいこう。景気回復の兆しはあるけれど、二番底は怖いから、ストップロスは入れておこう。 |
安心 | やはり景気は順調に回復しているようだ。 もう一度チャレンジしてみようかな。 |
景気回復が確定的だから、さらにロングを仕込んでいこう。当然ストップロスは入れておこう。 |
「冷静投資家」にも様々なパターンがあると思いますので、あくまでも一例です。また、各ステージで何らかの分析の下で意思決定をしているはずですが、その辺の詳細は省いています。
冷静投資家の思考・行動のポイント
同じ状況でも「感情投資家」と「冷静投資家」は全く異なる思考・行動をとっていることが分かると思います。冷静投資家の思考・行動のポイントを改めて整理してみましょう。
自分の感情や情報を客観的に見つめる
冷静投資家は、市場の過熱感、お祭り騒ぎに加わることはありません。感情投資家と同様に買いに参入することはあっても、高揚感で買うことと、冷静な判断で買うことは大きな違いです。
また、民放や一般の新聞のような情報が遅い、感度の鈍いメディアの情報は、むしろ転換点のサインである可能性を疑います。これらのメディアの情報によって、未来を予測したり、動揺させられたりすることはありません。
実際のところ、経験のある投資家も市況から心理的な影響を受けることは普通にあります。しかし、常に合理的な意思決定をしようと務めている点が、感情投資家との大きな違いです。
リスクヘッジしながら、勇気をもってリスクテイクする
冷静投資家は、常に現状のリスクの大きさを見積もり、リスクヘッジしながら、合理的なリスクテイクをします。
不況の渦中で世間の雰囲気が暗くなり、メディアもそれを助長している状況でも、冷静投資家は何らかの情報や分析を頼りに、勇気をもって金融商品を買い集めます。買った後に値下がりすることは織り込み済みで、更に買います。この時が最大の投資機会であり、リスクが最小になるため、資金の多くはここで投資します。
市場が勢いよく上げている状況で、感情投資家と同様にトレンドに乗って買いに入ることはありますが、必ず損切りすべきラインは決めます。この状況はリスクが高まっているため、ここでエントリーする投資は、資金のごく一部です。
仮説が外れたら、すぐに投資方針を見直す
冷静投資家は、常に複数の状況を想定して、それぞれの状況にあった策を講じます。自分の仮説が外れた場合は、直ぐに思考をリセットして方針を見直します。一方で感情投資家は、自分が期待した方向感の空想からなかなか逃れることができず、含み損を大きくしていきます。その結果、最も金融商品が安くなっている時期に、資金も気力も失い、多大な機会損失をしてしまいます。
長期積み立て投資の場合
ここまでの説明は、投資家自身の判断で売り買いする裁量取引を前提にしていました。一方、僕は過去の記事で資金の大部分は長期積み立てで投資することをお奨めしてきました。長期積み立て投資と、投資家情動サイクルの関係について考えてみましょう。
結論から言えば、長期積み立て投資は、投資家情動サイクルを無視できます。最初に積み立て設定さえしてしまえば、ニュースもチャートも見なくていいからです。何者にも感情を揺さぶられない、ある意味最強の投資家です。
そんな長期積み立て投資家にも唯一の失敗パターンがあります。それは、世間の投資家情動と同調してしまい、いつの間にか裁量トレーダーに変身してしまうことです。世の中の騒ぎに反応してしまい、自動設定を解除し、欲や恐怖に任せて裁量で売り買いを始めてしまうということです。短期的には上手くいくかもしれませんが、そのまま投資家情動サイクルに無自覚なまま投資を継続していると、高い確率で失敗します。長期積み立て投資家は、一度決めたルールを守らなければ、この手法の利点を活かせません。
まとめ
投資家情動サイクルを知っていたとしても、相場の中で身をもって体感しないと理解することは難しいかもしれませんが、無知のまま投資してしまうよりもずっと良いです。まずは、投資家情動サイクルを理解しましょう。
その上で投資初心者は結局どうすればよいかというと、以下のいずれかです。
1.日々の生活が手一杯で投資に感情を揺さぶられたくない人
投資資金の100%を投資信託やETFなどの長期積み立て投資に振り向けましょう。長期投資のルールを決め、定期購入・積み立ての金額を決め、証券口座で一度設定をしたら、その後は経済ニュースやチャート、資産の評価損益も、それほど頻繁に見なくてよいです。景気サイクルや世の中の投資家たちの感情と同調しないように気をつけて生活してください。素人が投資するよりも、死者の方が投資成績が良いというブラックジョークがあるくらいですから、何もしないということも有用な戦略の一つです。
2.時間的にも心的にも余裕があり、積極的な投資をしたい人
このような人も初期の頃は投資資金の9割以上は積み立て投資するのが良いと思います。残りの10%以下の資金で裁量トレードをしてみましょう。知識も乏しく、相場の中で初めて体験する自分の感情にも戸惑い、上手くいかない可能性が高いでしょう。失敗を分析し、思考と行動を改善し、何度も挑戦し、知識と経験を着実に積み重ねていけば、長期積み立て投資よりもパフォーマンスを上げられるようになるでしょう。