特に投資初心者をはじめ、全ての投資家にとっての最も大きな悩みの一つとして、感情に流されてトレードをしてしまうということがあげられると思います。感情に流されて高値掴みし、底値で損切りしてしまう。
今回は、そんな悩みから脱して、淡々と末永く投資家人生を歩むための必須概念である「投資家情動サイクル」について説明します。
情報ソースはこちらのサイトを参考にしつつ、僕の考えも一部織り交ぜながら書いています。
投資家情動サイクルとは
株価などの価格変動を構成する要素には、実体経済(景気)や各国政府による経済対策のような客観的事実のみならず、個々の投資家の感情が多分に含まれています。
一般的に投資家は、投資が順調に進み利益が出はじめると誰もが興奮し、自信を持ちます。一方、物事が期待どおりに進まなくなると失望します。その感情的な反応は、市場の状況に応じて刻々と変化します。その変化は感情の波を生み出し、サイクルをもたらします。そのサイクルの中において、市場参加者が通常経験するさまざまな感情的な状態を下の図のように表すことができます。

これを「投資家情動サイクル (Investor Emotional Cycle)」といいます。日本語の正式な訳語が見つからなかったので、ここではこのように訳しました。Emotionalに関しては、口語的には「感情」と訳しますが、研究対象として客観的に取り扱う場合は「情動」を使用します。
それぞれの情動のステージがどのようなものか見ていきましょう。
楽観 (Optimism)
未来への前向きな見通しから、あなたは株を買う。
興奮 (Excitement)
市場はあなたの期待した方向へ向かって動き始め、期待感と希望が膨らみ、あなたは成功していると感じ始める。
スリル (Thrill)
さらに市場は上昇を続け、あなたはすでに稼いでおり、自らの意思決定に大いなる自信を持ち始めている。
陶酔 (Euphoria)
市場はさらに成長し、あなたの投資は迅速かつ容易に利益に変わり、あなたは最高の幸福感に包まれている。「この機会を逃すことはできない!」と誰もがこの市場に飛び乗りたいと思っている。この時点でリスクが最大になっている。
不安 (Anxiety)
市場は弱さの最初の兆候を示しているが、総じて長期的には依然として強気であり、それは短期の調整であるとあなたは自身を納得させる。
拒否 (Denial)
市場の「調整」に当初考えていたよりも時間がかかっている。疑問が生じ始め、長期的な強気相場を信じていたはずなのに、いつしか短期的な回復への希望に変わっている。この時点では、まだ現実を直視することを拒否している。
恐怖 (Fear)
ある時点で、自分の認識と現実を比較しなければならなくなる。自分がそれほど賢くなかったことに気づく。あなたは僅かな利益あるいは損失で手仕舞いしたいと思っているが、何をすべきか判断できず、行動しない。ここで不確実性が最大になる。
絶望 (Desperation)
この時点で利益を上げるチャンスが失われる。あなたは心底、自分の投資を心配しており、ポジションが再び含み益に戻るために何かが起こることを強く望む。
パニック (Panic)
市場の雲行きが急激に悪くなり、あれだけあった含み益が、含み損に変わっている。これは最も感情的な影響が出る期間であり、無力で何をすべきか本当に分からない状況。自分の投資を少しも制御できないように感じる。
降伏 (Capitulation)
あなたは限界点に達し、どんな価格でもポジションを売却してしまう。より大きな損失回避のために市場から抜け出すことができたと、ある種の満足を得る。
落胆 (Despondency)
期待を裏切られ、大損し、気分が悪くなり、もう二度と株を買いたくないと思う。逆張り投資家にとっては、このあたりが最大のチャンスである。
憂鬱 (Depression)
暴落の後遺症が始まる。何も手がつかず、憂鬱な気分で、あなたは何が起こったのか考え始め、どうしてそんなに愚かだったのか自問する。
希望 (Hope)
市場は徐々に改善し始め、全体的な状況は良くなり、金融市場には循環があることに気づく。ある程度の経験を得て、新しい投資機会を探し始める。
安心 (Relief)
市場は再びポジティブになり、あなたは再び自分には投資する能力があると自分を納得させる。サイクルは繰り返す・・・。
情動サイクルが起こる原因
景気にはサイクルがあります。人間は感情的であるため、そのサイクルに呼応するように情動が湧き起こり、思考や行動にバイアスがかかります。なお、景気サイクルが情動サイクルを起こしているのか、大衆の情動サイクルが景気サイクルを引き起こしているのか、というと両者が助長し合っている関係でしょう。
投資家情動サイクルのメカニズムは複雑で、今日も行動経済学や行動ファイナンスといった心理学・経済学の分野で研究されているテーマです。
投資家の感情サイクルを理解するのに役立つかもしれないいくつかのポイントは以下の通りです。
- 私たちは排他的に考えるように設計されている
- 私たちは即時性のある満足を探している
- 私たちは群衆の行動に参加する
排他的思考 (Exclusive Thinking)
株価は上下に行ったり来たりするのは、それぞれの投資家が排他的(好き勝手に)に考えているからです。投資家はそれぞれ、株価が上がる、あるいは下がると確信しています。そのため、株式は通常低いボラティリティで上昇し、非常に短期間のうち高いボラティリティで暴落します。つまり、バラバラだった投資家の思考や感情が、徐々に加速度的に同調し、臨界点に達すると、瞬間的なクラッシュを起こすのです。
株式市場において確率論的な予想ができるのは、ごく少数の投資家だけです。なぜなら、それができないことの方が人間として自然だからです。
Exclusive Thinkingの概念が心理学分野にあるのかどうか、見つけられなかったので意味の解釈に悩みますが、ニュアンスとしては「客観的事実を度外視にして、自分の思い込みの中に閉じこもって、一人で思考してしまう」ということと、僕は認識しました。この状況に陥ると、他人からの忠告も、自分の期待と異なる情報も遮断し、都合の良い情報だけを摂取するようになります。
即時性の満足 (Instant Gratification)
誰もがすぐに手に入る満足を求めます。人間は皆、できるだけ早く、リスクなしでお金を稼ぎたいと思っています。その点においては、金融メディアが大きな役割を果たしており、彼らは常に短期的な動きに関する極端なタイトルで人々を煽り立てます。全体像を気にする人はほとんどいません。特定のニュースで大きな値幅を生み、誰もが追いかける「ホットストック」が存在するのはその為です。
群衆心理 (Herd Behavior)
人間には多数派がやっていることに準拠する傾向があります。要するに、多くの人は特定の方向性を自分の意思で決めることなく、他の皆がしていることをしているだけなのです。その結果、株価が上がると、人々はより多く購入します。需要が増加すると、投資家はさらに慌てて購入します。逆も同様で、市場が落ち込んだ場合、人々は損失を回避するために売り、価格が下がるほど投資家は急き立てられるように売ります。
このサイクルを自分の投資に活かすには
人間の情動が株式市場の売買行動を支配し、多くの投資決定が合理的な計算ではなく感情的な反応によって行われていることを理解してもらえたかと思います。
まず、僕たち全ての投資家は、この情動サイクルを認識する必要があります。他の誰かではなく、必ず自分の中にもこうした情動の波が起こります。投資経験者と未経験者の最大の違いは、この情動サイクルを身をもって経験したことがあるかどうかです。自分の感情を客観的にチェックできるようになることは、より良い投資判断につながる重要な要素の1つです。
安く買って高く売ることは、富を築き、長年にわたって成功する投資家になるための最良かつシンプルな戦略です。しかし、大多数の人々が正反対のことをするというのが真実です。ほとんどの人は、金融リスクが最大になるスリルの段階か幸福感の段階で市場に参入し、価格が高いときに購入します。そして、市場が悪化すると恐怖モードに入り、どんな安値でも売ります。落胆や憂鬱の段階は、購入するには最高の瞬間ですが、完全に打ちひしがれ、資産の大半を失った普通の人たちに、再度市場に参入する気力は残っていません。それなのに市場が成長し、スリルや幸福感の段階に入ると、焦燥に駆られてまた市場に参入してしまうのです。
こうした流れの中で僕たちは、皆と正反対の決定をする必要があります。投資情動サイクルを認識しておくことは、群集心理に流されそうになったときに、立ち止まって考え直すことに大いに役立ちます。
まとめ
- 大多数の人が投資家情動サイクルの支配下で投資判断をする
- 投資家情動サイクルに従って投資すると必ず失敗する
- 成功する投資家としての第一歩は、投資家情動サイクルを認識し自分がそこから抜け出すこと
投資家情動サイクルから抜け出すための方法については、また別の記事で詳しく解説していこうと思います。
行動経済学~経済は「感情」で動いている~ (光文社新書)
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